直売所かたくりを論ず
直売所かたくりを運営する栄村農産物販売所出荷運営組合(組合員110名)は、8月22日午後、定期総会を開催し、熱心な討論が行われました。討論は一言でいえば、「村民一人ひとりの努力で直売所を成功させる」という熱い気持ちが溢れるものでした。
総会開会直前の会場の様子
総会の討論でもあきらかにされたとおり、スタートからまだ2年目を迎えたばかりの直売所かたくりは4年目(平成30年度)に自立経営を可能にするために、当初3年間は年500万円の補助金を必要としています。しかし、村が本年度の補助金をまだ確約していないため、組合−直売所はたいへん困難な状況におかれています。
そこで、本号では、直売所かたくりの実績と抱える困難、その打開の方途について、少し文章量が増えますが、論じてみたいと思います。
売上げは計画以上に伸びている、しかし、経営は苦しい。いったい何故?
昨年7月10日にオープンした直売所かたくりのH27年度(1年目)の売上げ実績は約2千662万円。当初計画を約462万円上回っています。また、本年4〜7月は売上げ額1495万円と予想以上の好調で、本年度(2年目)の売上目標額4千万円を超過達成する勢いです。
直売所かたくりを実際に訪ねてみれば、出荷されている野菜等の品物の豊富さ、絶え間ないお客さんの入り込みの様子などから、上記の数字に表される勢いを肌で感じ取ることができます。
なのに、「組合の経営が苦しい」っていうのは、どうしてなのか?
誰もが抱く疑問です。
その答えは、組合の運営資金の元となる収入は、「手数料」として入ってくる売上げ額の20%にすぎないということにあります。80%は出荷農家に精算・支払われます。
「手数料は20%」――これが安すぎるのでしょうか? いえ、そんなことはありません。近隣市町村の直売所には手数料15%というところもあります。20%はほぼ上限と言ってもいいでしょう。
直売所の最も大事な点は“委託販売”であること
出荷農家への精算が売上の80%という点について、もう少し、議論します。
ここが直売所の直売所たる所以(ゆえん)です。
組合員農家は、野菜等の出荷品を直売所(組合)に売り渡す(直売所の側から言えば、仕入れる)のではありません。あくまでも自ら販売するのです。だからこそ、品物の値段を自分自身で決めることができるのです。
ただ、店舗(直売所)でのレジなどを一日中、農家がやるわけにはいかないので、組合に販売作業を委託するのです。20%という手数料は言いかえれば委託料なのです。
農家、とくにかあちゃんたちが長年にわたって強く望んできたのは、「何を出荷するかを自分で決め、値段も自分で決められる」こと、すなわち委託販売の直売所だったのです。
出荷する農家も種代、肥料代、手間などを要していますから、80%の精算は有り難いのです。店側の「買い取り」制だと、農家は何を出荷するか、自分で決められません(「物産館」は「買い取り制」で、農家のかあちゃんたちが直売所を望んだのは、まさにそれゆえです)。
また、農協などに出荷した場合、売上からさまざまな手数料が引かれ、農家の手取りは50%前後にしかなりません。それに対して、直売所は農家と消費者が直接に結びつき、消費者は新鮮で「顔の見える」安全・安心な農作物を手に入れられる一方、農家は「自分の働きが充分に報われた」と実感できる収入を得ることができるわけです。
なお、この点に関連して、「道の駅に同じような施設が3つ並んでいる」という議論が、根本的なことを忘れた、誤った議論であることを指摘しておきます。かたくりは農家が自分の農産物を売る直売所、田舎工房は純然たる商業施設、物産館は農家に自主決定権がない買い取り制なのです。この違いを明確にせず、「同じような施設が3つ」などと言う人は直売所の何たるかを認識していないものと言わざるをえません。なお、一言加えれば、今では消費者(お客さん)も農家の直売所と純商業施設を区別して見る目を持っておられます。
困難の遠因は施設建設の経緯にある ―― 村が果たすべき責任とは
直売所が作られる場合、大別すると、2つのケースがあります。
第1は、農家が組合を作り、自己資金で施設(大概の場合、当初は小さなプレハブ)を建てて、直売所をスタートするケースです。
第2は、行政が施設を新たに建設(あるいは既存施設を改修)し、直売所の運営を農家の組合に委ねるケースです。
直売所かたくりは後者です。栄村の近隣市町村の場合も、この第2のケースが多いです。その場合、近隣市町村では開始から約10年間は補助金や指定管理料が出され、ほぼ10年後に自立経営が軌道にのっています。
栄村の場合、農産物販売所という建物の建設は、震災復興交付金が使えるということで、役場が決め、実行に移したものです。
役場は、施設の建設を進める一方で、農家、とくにかあちゃんたちに声をかけて、直売所についての学習会や研修会をセッティングしました。そこには、もともと、「直売所をやりたい」と思っていた人たちが集まりましたが、役場が主催する研修会企画は年度が替わると、予算との関係で前年との継承性が定かでないものになったりして、戸惑いを深める農家の人たちもいました。2014年秋から暮れにかけて、現在の出荷運営組合の設立への動きが具体化しましたが、基本的に役場が描くプランに沿った形で進められました。
出荷運営組合が出荷運営組合として自主的な運営に移行したのは、昨年5月連休の時に正式オープンに先立って試験販売(プレオープン)を行った時あたりからです。役場が考えた当初の予定では、試験販売は5月連休期に限られていましたが、組合員の熱意で、「5〜6月の土日は試験販売を続けよう」となり、それが7月10日の正式オープン(グランドオープン)以降の盛況につながりました。
なお、村が「栄村農産物販売所の設置及び管理に関する条例」を制定・施行したのは昨H27年3月20日、また、農産物販売所の管理運営について、出荷運営組合への指定管理を決めたのはプレオープン後の昨27年5月8日の臨時議会でのことです。
以上の経緯をみれば、施設を建設した村が、出荷運営組合による経営がある程度の軌道に乗るまで、一定の財政的支援を行うことが必須であり、当然であることは、誰の目にもあきらかです。
直売所かたくりは、復興の柱であり、栄村の農業を守り、発展させる要(かなめ)
8月22日の組合総会では多くの人が発言されました。最も印象的だったのは、
「私も70歳代になり、だんだん耕作する畑の面積が減り
始めていました。でも、直売所ができるというので、も
うひと踏ん張りして、畑を耕し、作物をつくって、直売
所に出しました。そうしたら、収入が入り、とても嬉し
く、元気になりました。必ず自立経営ができるように頑
張りますので、村は是非、補助金を出してください。」
という趣旨の発言でした。期せずして、会場全体から拍手が巻き起こりました。みんなの気持ちをストレートに代弁するものだったからですね。
「ししこしょう」。「信州の伝統野菜」に認定されました。
震災後、栄村にはいろんな建物が建てられました。その中で、直売所かたくりほど、村の人たちがたくさん、しかも頻繁に集う場所は他にはありません。出荷に、様子見に、買い物に、いろんな形でひっきりなしに村人が訪れ、栄村の震災復興のシンボル、元気の集まりどころになっています。
栄村の農業は、基本的に小規模農業です。しかも、担い手の高齢化が進んでいます。言い方をかえれば、「先が見通せない」、もっとはっきり言えば「先が暗い」ものになっています。
しかし、いま、上に紹介した発言からはっきりわかるように、“一筋の光明”が見えてきているんです。直売所かたくりの成功のゆえです。直売所の第一歩(第1段階)は確実に成功したのです。
いま、2年目を迎え、成功への第二歩を確実に歩みつつあります。それを確証するのが今年4〜7月期の売上げ額です。
この道をまっすぐに進むことができれば、栄村の農業は守られ、後継者確保の手がかりをつかむことも可能になります。早い話、組合の運営に若い人が関わることができるようにし、その人を輪っかの中心として、若手農業者の直売所出荷が増えれば、「おい、栄村の農業も捨てたもんじゃねえぞ」という認識が村中に広がるでしょう。
まず補助金を決める、そして、明るい雰囲気の中でさまざまな改善と前進の策をうっていく
いま、真っ先に必要なことは村が今年度の補助金500万円の支出を一刻も早く決めることです。さもないと、組合は「見通しが立たない」ことから暗くて重苦しい雰囲気になり、前進がとまってしまいます。
500万円、けっして小さな金額とは言いませんが、それくらいを出す財政力は村にはあります。他には使途や成果が定かではない出費もある中で、出荷運営組合への補助金は使途も効果も非常に明々白々なものです。
さて、補助金が得られたら、次の課題は、1年余の運営の結果をふまえて、さまざまな課題に応える改善策をうっていくことです。
これは組合で議論し、決めることですが、私の意見を言わせていただくならば、重要なことが2つあるのではないかと思います。
1つは、店長の仕事を補佐する人材の投入です。店長の小林さんは一日の休みもなく働いておられます。限界量をはるかに越える仕事をされていると私は見ています。直売所の業務量の多さ、多岐性に対応した人の投入が不可欠だと思います。
2つは、組合員相互の話し合いの場を創り出していくことです。1〜2ヶ月に1回くらいのペースで「○曜日の午後2時〜5時」と定期開催日時を決めた組合員フリー討論の場のようなものをスタートさせるのがいいのではないかと思います。
長々と書いてきましたが、肝心なことは、成功のスタートをきった直売所かたくりの希望の灯を村民みんなの努力でもっともっと明るくしていこう!ということです。森川村長、村議会のみなさんには、村民のこの気持ちに一刻も早くこたえていただきたいと思います。