「信毎の報道ではよくわからない」――共通入浴券問題に関して、村民の中に大きな疑問。
7月19日の信毎(信濃毎日新聞)「北信」版に、「共通入浴券 運用見直しへ 栄村 公社の経営改善狙う」という見出しの記事が掲載されました。
共通入浴券問題、ここ半年以上にわたって村民のみなさんの大きな関心事項になっていますので、多くの人が目を凝(こ)らしてお読みになったようです。が、「実際にどうなるのか、読んでも分からない」と話される人が多いです。
私は共通入浴券問題に関しては、議会全員協議会の場での協議の推移などをもう少し見たうえで、本紙に記事を書こうと思っていました。しかし、上のような状況が生まれていますので、現段階で書ける範囲のことをみなさんにお知らせしなければならないと判断し、今号で取り上げることにしました。
● 示されたのは「運用見直し」ではなく、「共通入浴券の廃止」
信毎記事では「栄村は18日の村議会全員協議会で…共通入浴券の運用を見直す方針を示した」と書かれています。
これは不正確です。村が全員協議会で示した協議内容は、「共通入浴券の廃止」です。
共通入浴券とは、村内にある7つの温泉いずれにも入浴できる年間定期券です。これを廃止するというのです。
非常に衝撃的なことです。
栄村が開発・所有する温泉の管理・運営について定めた「栄村温泉条例」という条例があります。その第5章は「温泉入浴使用」と題され、共通入浴券の発行を定めた第25条をはじめ11の条項があります。11の条項すべて、共通入浴券に関わる規定です。
村が示した案は、この温泉条例の第5章全体を削除することです。
● 百合居と長瀬については代替案が示されたが、振興公社管理の温泉については具体的代替案が
示されず
では、村の温泉への入浴はどうなるのか?
誰もが抱く疑問です。
<百合居と長瀬に関する案>
百合居温泉と長瀬老人福祉センターの温泉は、村の直営です。この2つの施設については、代替案が示されました。
年間券 1人12,000円(村民のみ、年齢を問わず)
1回入浴 1人 百合居200円、長瀬300円
百合居温泉では、現在は家族券が発行されています。これが「1人券」に変わりますので、世帯毎の村民負担はかなり上がります。これは重大な問題であり、慎重かつ十分な議論が必要です。津南町の町議さんは、「地域の温泉の経営が苦しいからといって、家族券を廃止したり、値上げをしたりすると、かえって温泉の経営が悪化し、二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなる。地域もバラバラになりますよ」と忠告してくださいました。こういうアドバイスもしっかり受け止める必要があります。
<公社管理の温泉>
他方、「トマトの国」や「北野天満温泉」などは、温泉宿泊施設全体を振興公社が指定管理で管理・運営しています。村が示した案では、「振興公社管理施設」と呼称され、つぎのように書かれています。
「振興公社で年間券を発行する。」
これだけです。年間券の価格がいくらなのか、何も示されていません。
「公社が発行する年間券の価格は言えない。公社の独立性に
関わることだから。」
というのが「理由」です。
信毎の記事では、「公社での議論の進み具合について、村商工観光課の担当者は『現在検討中の段階』と述べた」と書かれていますが、これはある意味ではその通りでしょうが、またある意味では間違いです。どんな検討がされているかは「公社の独立性に関わることで、村からは言えない」というのですから。
信毎の記事で、事態の核心をいちばん的確に伝えているのは、「共通入浴券の継続や廃止、料金設定を公社の判断でできるようにしたい」という部分です。温泉に関して公社に自由裁量権を与えるということです。
18日の全協の閉会時の挨拶で森川村長は、「年間券を3万にしようが、5万にしようが、10万にしようが、それは公社の経営の問題」と言い放ちました。まさか、森川氏が「3万、5万、10万のいずれでも構わない」と考えているとは、私は思いませんが、理屈の上ではそういうことも起こりうる状態にしてしまうのが、温泉条例改定−共通入浴券廃止という路線の本質だと言わねばなりません。
共通入浴券の問題は重大な局面を迎えました。8月9日に再び村長要請の議会全員協議会が開催される予定です。そこでの協議を経て、9月6日開会予定の議会定例会で共通入浴券廃止のための温泉条例改定案を成立させたいというのが、村がめざしているところです。
さて、この問題をさらに明確にしていくためには、振興公社をめぐる問題に踏み込むことが必要です。
■ 「共通入浴券が公社の経営悪化の要因」というのは事実に反する
再び、信毎の記事内容に立ち返りますが、「村振興公社の経営立て直しが急務になっており、入浴券の見直しで経営改善につなげる狙い」、「共通入浴券は入浴料が割安なため、振興公社の業績が悪化している要因の一つでもあるという」と書かれています。
本当でしょうか?
● 今年に入って以降、振興公社に村からいくらのおカネが入っているか
振興公社は経営赤字が膨らみ、今年の1月、「このままでは2月の給料が支払えないかもしれない。3月はもう支払えない」ということで、村が振興公社に5千万円の資金を投入するという話になりました。
議会は、1月12日の臨時会では「出捐金5千万円」という村長提案を否決、同じく1月24日の臨時会で「2〜3月破綻危機のりきりのために出捐金2,100万円を投入」という案を承認しました。さらに、3月の予算議会では、振興公社への指定管理料の支払い額をH28年度までの1,060万円から1,850万円に引き上げること、また、公社の資金運用のための担保にするお金」ということで2,900万円の出捐金を投入することが決まりました。
つまり、今年に入ってから、振興公社には村から計6,850万円のおカネが入っています。
(なお、この6,850万円には、施設修繕費等は含まれていません。それは別途、村が支出します。)
● 共通入浴券赤字はじつは「指定管理料」で補填済み
振興公社に村から指定管理料が支払われるようになったのは平成27年度からですが、H27、H28両年度は年間1,060万円でした。
昨年9月の決算議会で、福原洋一商工観光課長は、
「1,060万円は指定管理料という名目だが、実際は共通入浴券
による赤字分の補填として出している金額」
という趣旨の発言をしています。「共通入浴券による赤字」が仮に発生しているとして、それは「指定管理料」で補填されているというのですから、「振興公社の経営危機の大きな要因が共通入浴券」という説は事実に反することになります。
● 今年度はもっと補填されている
今年度、指定管理料は790万円増額され、年間1,850万円とされました。
ちょっと長くなりますが、商工観光課作成の1,850万円算出根拠の説明書を見てみましょう。
今までは、共通入浴券で入浴した際の経費負担を算出していた。
H29年度から施設の管理費係る経費、利用者が利用できるため
に準備する経費を算出した。
施設の維持管理に係る、光熱費の内電気料の基本料、使用電気
料の内宿泊者がいないほぼ温泉利用者のみの月の電気料の内50%
50%の算出は、温泉利用者の内90%が共通入浴利用者であるこ
とから、施設管理者と協議の上50%とした
灯油は、温泉加温ボイラなので、温泉管理にボイラーを使用して
いるトマトの国及び北野天満温泉、のよさの里の使用灯油料から
算出した
(誤字・脱字の類がありますが、原文通りを記載。閲覧可能な
議会議事録に収録されています)
こういう「根拠」で算出された金額を「トマトの国」と「北野天満温泉」について見てみます。
トマトの国
電気基本料基本月額 103,200円×12月=1,238,000円
使用料 137,282円×12月=1,647,000円
灯油代 5,125,900円×50%=2,562,000円
水道、浄化槽 461,000円
計 5,908,000円
北野天満温泉
電気基本料基本月額 112,791円×12月=1,353,000円
使用料 182,022円×12月=2,184,000円
灯油代 1,084,000円×50%=542,000円
チップ代 1,612,600円×50%=806,000円
水道、浄化槽 564,000円
計 5,449,000円
「算出根拠」に関わる説明文は、やや分かりにくい文章です。しかし、趣意をなんとか読み取ることはできます。大事な点をまとめてみましょう。
1. 施設の維持管理に係る経費をより手厚く村が面倒みる。
2. 「宿泊客がいなくて、施設利用者はほぼ温泉利用者のみという月
がある」という記述、また、「その温泉利用者のうち90%が共通
入浴(券)利用者」という記述がある。つまり、「共通入浴券に
よる赤字の補填」は本年度においても指定管理料算出根拠の柱に
なっている。
このように、どう考えても「共通入浴券が公社赤字(業績悪化)の要因」説は根拠がありません。
また、〈共通入浴券の廃止→振興公社の経営判断による年間券の発行(当然、かなりの値上げとなる)によって公社の経営赤字を削減する〉というのならば、共通入浴券に係る経費負担が大きな算出根拠になっている指定管理料は、H30年度以降、大幅に削減するという話がセットで出て来なければおかしいのです。しかし、そんな話はまったく出てきていません。
■ 振興公社の経営再建には何が必要か
この半年〜1年を振り返ってみると、村は、振興公社に村のおカネを入れるという類の案件を出す時だけ、振興公社の経営(危機)について口にします。
しかし、これはおかしいでしょう。
村がすでに本年に入って以降だけで6,850万円ものおカネを投入しているのですから、公社の経営基本方針や年間事業計画、月々の業績等について公表を求め、平素から振興公社の経営についてオープンな議論をしなければいけません。そうしてこそ、経営再建が実現されていくのです。
● 「公社の赤字化の根源は高橋彦芳村政」――とんでもない謬論
私はこの1年の間に、上記の見出しのようなことを言う人に複数回出会ったことがあります。
「高橋彦芳氏は『公社は儲けなくていい』と言っていた。『赤字でい
い』とは言っていなかったが、『トントンでいい』と言っていた。
こういう考え方が、公社経営の赤字化の根源にある」
という「主張」です。
はっきり言いますが、この「主張」は間違い、謬論(=誤った議論)です。
高橋村政の後半期には振興公社の経営が苦しくなる面があったのは事実でしょうが、ここ数年間に見られるような、経営破綻に至る大赤字は生じていませんでした。
振興公社は例の3億円事業で決定的におかしくなったのです。これは、村民の多くの方々の共通認識だと言っていいと思います。
今回は、その共通認識からもう一歩深めることが必要です。〈どのようにおかしくなったのか〉を解明することです。
私も一所懸命考えました。そして、ようやく見えてきました。
国等の補助金をもってきて、なにか華々しいイベント等をやることが公社経営だと錯覚し、村の資源を活かす地道な事業をコツコツと積み上げていくことを忘れてしまった、これがいちばん大きな問題だと思うのです。
〈振興公社〉という名称をよく考えてください。何を〈振興〉するのですか? 村、そして村民の振興です。東京の大手会社などに多額の支払いをするイベントをやっていても、村の振興にはなりません。
● 村民の知恵と力を総結集できる振興公社運営体制を築くことが再建の道
いま、振興公社の再建のために何がいちばん大事でしょうか。
村民が「公社の経営がどうなっているのか、さっぱり見えない」と思っているかぎり、振興公社をうまく運営・経営できるはずがありません。
たしかにいま、村民が振興公社の現状について疑念を抱いている状況があります。しかし、「振興公社なんて、どうなってもいい」なんて、村民はまったく思っていません。現に、「トマトの国」のケースでいえば、7月12日、愛湯会のみなさんがボランティアで「トマトの国」周辺の草刈りをしました。そこには栄村民だけでなく、津南町民の愛湯者もおられました。
北野天満温泉でも、春にカタクリが咲く場所がきれいに草刈りされているのを7月上旬に見ました。地元の北野温泉利用者のみなさんがやって下さったのだと思います。(さらに言えば、温泉とは関係ありませんが、秋山郷の天池、7月19日に行くと、草刈りがされていました。なんと津南町見玉の人がやって下さったそうです。)
こういう村民の思いは、共通入浴券利用者だけに限られたものではありません。日頃は公社施設と疎遠になっている人でも、振興公社について心配しています。「偶(たま)には昼間から温泉に入って、お昼でも食べたいな」という声もよく聞きます。
こういう振興公社のことを思う人たちがたくさんいるのですから、振興公社の現状を打開する道はあるはずです。
そこで、提案です。
振興公社の高橋規夫理事長さん。公社管理の温泉の愛好者、さらに村民全体と膝を突き合わせて懇談してください。村民の中には、「高橋規夫さんって、どんな人?」と言う、あなたのことをよく存じ上げない人もたくさんおられます。まず、村民の中にどんどん入っていって、村民と交わることです。そして、村民の疑問や考え(アイディア)に耳を傾けてください。その疑問や声に答えて下さい。
そうして、理事長と村民の間の信頼関係が築かれれば、共通入浴券の問題を含めて、諸懸案を打開していく道が自(おの)ずとひらかれていくでしょう。これは森川村長をもってしても出来ないことです。振興公社の理事長さんにしか出来ないことです。
村民の知恵と力を総結集する振興公社が実現していく道はこれしかないと思います。
是非、実現していきたいものです。
高橋規夫理事長の勇気ある踏み出しを望む次第です。
<お断り>
今号は、ご覧のように、1頁トップの写真1枚を除いて、文字ばかりの号になりました。
共通入浴券問題の重大性に鑑(かんが)みて、このような編集にした次第です。みなさまのご理解をお願いいたします。
(なお、1頁トップの写真はブログにはすでに掲載済のものですので、今回のブログでは割愛しました)