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栄村復興への歩み
2011年3月に震度6強の地震で被災した長野県栄村で暮らす松尾真のレポートを更新しています。

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栄村復興への歩みNo.187 (通算第221号) 2月6日

震災復興へ大きな転回点、飛躍点

 いま、最も積雪量の多い時期を迎え、残っている復旧工事の中で最大のものの1つ、中条橋の架け替え工事も2カ月間の休止期間に入っています。
 そういう状況はあるものの、今冬を前にして、道路、圃場、住宅の復旧工事の過半が完了し、「震災復旧の大半を完了できた」という安ど感のようなものが存在するのは事実だと思います。たしかに、2年前の3月12日の被害の凄まじさを想起すれば、「よくぞ、ここまで復旧できたものだ」という実感を多くの人が共有されていることと思います。


年末までの工事で橋梁の一部が出来ている中条橋

 だが同時に、それは栄村が「復旧から復興へ」、大きく展開=飛躍していく時期が待ったなしで訪れていることを意味します。
 「栄村震災復興計画」は、その冒頭「復興計画の策定にあたって」で「復旧にとどまらない再生・復興計画」をかかげ、つぎのように述べています。
「当村では、今まで過疎化、高齢化、耕作放棄の増加等に対応するため、各種の施策を講じてきましたが、なかなかこうした状況に歯止めがかかりませんでした。そこに長野県北部地震が発生し、多くの被害が生じたのです。これらの被害に対して、これまで「復旧」が行なわれてきました。
 しかし、壊れたものをもとに直す「復旧」だけでは、現在の村の状況を改善することはできません。震災を契機に、人口減少や耕作放棄等が一層進むことが危惧されているのです。そのためには、再生・復興を目指す総合的な「復興計画」が必要になっています。(「計画」26頁。下線部強調は引用者)
まさに、この“再生・復興”に本格的に着手していくべき時期がいまなのです。基本的方向性は「計画」26頁の[村の状況を示す模式図](写真参照)に示されているとおり、

「若者・子ども・高齢者の住みよい、安全な村づくり」


です。



小集落の危機感を受けとめて

 役場職員や村議員さんを含めて色んな方々のご意見をうかがっていると、「復旧で安堵してしまって、復興への危機感が足らない」という声がかなり多く聞こえてきます。
 直接には、「小さな集落が地震で大ダメージを受けていて、そこから立ち直り、集落の存続を可能にするには、相当に頑張らなければならない。なのに、そういう危機感が役場や議会で希薄だ」という声です。

 1つの事例を挙げましょう。
 小滝集落です。
 震災前が17戸、震災後の現在が13戸です。4戸の減少ですが、減少率は約24%という大きなものです。しかも高齢化率は50%を超えています。
 これでは普請の維持等が大きな困難に直面せざるをえません。
 この2年間、小滝集落の復旧・復興への取り組みをいわば「小滝モデル」として紹介してきましたが、それは小滝集落に余裕があるから出来ていることなどではなく、集落の存続への危機感がバネになってのことなのです。
 この危機感を栄村全体のものとして共有することが大事だと思います。
 
 小滝集落では、この間の古道整備・古道歩きツアーや、小滝米の産直等の努力をベースに、公民館の改修や古民家の改修を行い、交流人口をいっそう増やしていくとともに、一人でも多くの新しい居住者の獲得を実現することをめざしています。そのために復興プロジェクトチームの会合を頻繁に開催するなど、懸命の努力が行なわれています。

青倉の圃場整備の重要性

 そうした中で、いまひとつ、復興への大きな取り組みとして、青倉集落での圃場整備の問題が浮上しています。
 これには、役場担当者や県が力を入れているようです。
 この動きの背景には、「現状のままでは青倉の米作りは継続困難になる。潰れてしまう」という大きな危機感があります。
 そうした危機感を生み出している要因は、第1に、青倉には未整備の圃場が圧倒的に多く、耕作放棄の増大がみられること、第2に、これまで耕作の中心的担い手となってきた人たち(=昭和1桁世代)の高齢化(80歳以上化)があります。
 ですから、青倉での圃場整備が本当に復興の成否をかけた重大な取り組みなのです。

復興庁の理解を得ること

 農水省の関係者は青倉の圃場整備の重要性、震災復興にとって不可欠であることを十二分に認識されているようです。
 しかし、復興交付金を握る復興庁には、まだまだその重要性を認識いただけていないように思われます。青倉が、栄村が声を大にして青倉集落復興の必要性、圃場整備の復興にとっての重要性を訴えていくことが必要だと思います。
 
 青倉集落の現状を私なりに整理していました。
  • イ. 長野県北部地震で最も激甚な被害を受けた集落である
  • ロ. 震災前から高齢化とそれに伴う耕作放棄等の問題が生じていた。集落の若手が中心となって、耕作放棄を出さないための受託作業班の結成などの努力を行なってきた。しかし、青倉集落では未だに本格的な基盤整備事業が行われたことがないことから、未整備で条件不利な未整備の小さな田んぼが山間地に多数あり、抜本的な対策を講じなければ、受託作業班の努力等にも限界がある。
  • ハ. 復興交付金制度による復興公営住宅の集落内への建設によって、住宅の自力建設が困難な高齢者世帯等の離村を防ぐことができ、集落の維持のための第一次的な最小限の措置が講じられた。また、また、集落出身の若者が自宅を新築して集落に戻ってきた事例もあり、その面では明るい兆しがある。
  • ニ. しかし、復興公営住宅に入居した高齢者世帯を中心に、未整備の圃場での耕作の継続が困難な世帯が急速に増加している。その圃場を上述の受託作業班が継承しなければという思いはあっても、圃場が未整備なため、作業孤立が悪く、作業上の安全にも問題があって、圃場整備なしには受託面積の拡大も困難である。
  • ホ. 圃場整備が実現されるならば、受託作業班の受託面積を大きく増やすこと、集落営農化を進め、その中で専任オペレーターの育成=新規雇用の創出等が可能になる。
  • ヘ. それは災害時に即対応できる集落定住の若者の増大を実現することにもつながる。
  • ト. 青倉受託作業班においては、7年前から自らが作るお米を「青倉米」としてブランド化し、産直、都市との交流を進めているが、圃場整備はその動きをより本格的なものとし、産直と交流の拡大、それを契機とする農業観光の創出など、いわゆる農業の6次産業化を進めることにつながっていく。
  • チ. 以上のような必要性と可能性を有する圃場整備を実現することによって、復興公営住宅の集落内建設・入居で第一歩を踏み出した集落の復興・再生をさらに前へ進めることができる。
  • リ. また、青倉集落が千曲川に面することを考えるならば、青倉集落での耕作維持、そのための標高1000mの野々海池からの長大な水路の維持、それに関連するブナ林を中心とする森林の維持は、水源涵養、保水能力の維持・向上―千曲川の水量維持に大きく資するものである。千曲川=信濃川の水力発電が首都圏のJR電車の所要電力の過半を供給している事実をふまえるならば、青倉集落の維持・存続は首都圏の暮らしにも直結するものであり、日本の国土政策上、重要な意義を有する。
 ざっと、以上のようなことが確認できるのではないでしょうか。
 青倉集落は本村において比較的大きな集落であることから、その存続をめぐって、先に見た小集落の小滝ほどの危機感がないともいえますが、実状は上に見た通りであり、大きな危機に直面しているのであり、圃場整備を中心にすえた集落復興・再生の取り組みが喫緊の課題となっていることは明瞭だと思われます。

「復興基本法」の理念を実現する施策を

東日本震災後に国が制定した「東日本大震災復興基本法」はその第2条で「復興の基本理念」をつぎのように定義しています。
「被害を受けた施設を原形に復旧すること等の単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興の施策の推進により、新たな地域社会の構築がなされるとともに、21世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指してぉこなれるべきである」
 まさに、この理念にぴったりと対応する復興策が青倉の圃場整備だといえます。
 県の支援もいただきながら、役場、そして青倉集落を先頭に、国に強力に働きかけ、是非、実現していかなければならないと思います。
  
 さて、以上は1月30日に書いた部分なのですが、その後、興味深い話を聞きましたので、その視点から、もう少し議論を深めておきたいと思います。

あるお茶のみから

 ある人がFacebookに次のようなことを書かれていたのです。
本日のお茶のみにて。
「最近やる気がなくって」という人がちらほらいて、その共通点が、ようやく家を建てた人、復興住宅に入った人ということに気付く。
・やらなきゃいけないと思うけど、些細なことなのにできない。
・丁寧に料理していたのに、出来合いものが増えた。 など。
そういえば、仮設に入らず早めに自宅の修理が出来た人も、修理が終わった頃に同じようなことを言っていた。片づけが出来ない、作る畑を減らしたなど。
早めに帰ってきた人、ようやく帰ってきた人。集落の中でタイムラグがある。
「何か新しいことを!」という思いもあるけれど、まずは雰囲気をつかむことが大事だね。
 これは重要な現実だと思います。
 このわずか2年弱の期間に、地震、避難(所)、仮住まい(仮設等)、住宅の再建、再建された住宅ないし復興村営住宅への引っ越し――これだけの目まぐるしい動きがあり、ようやく「落ち着いた」のです。
 ここで、「さあ、復旧はできた。つぎは復興のステップへ前進だ」と言っても、そんなに簡単に進めるものではありません。あまりに慌ただしかった2年の疲れを癒し、少しほっこりして、次へのエネルギーを充填する時間も必要です。
 今回のレポートの冒頭に書いた「震災復興へ大きな転回点、飛躍点」という認識(主張)と、この「少しほっこりして、次へのエネルギーを充填する時間も必要」という認識との整合性をどうつけるか、非常に難しいところです。

* 復興に十分な時間を

 私は、ここでは国(やマスコミ)の姿勢が非常に大切になってくると思います。国が東日本大震災復興基本法―基本方針で定めた復興期間は10年間です。復興にはそれくらいの時間がかかるのです。それは単に被害規模が大きいので復旧・復興に物理的に10年間要するというだけの意味ではありません。復興の主体はあくまでも被災地住民であり、被災地住民の主体的条件を念頭におきながら、被災地住民自身の意志形成・合意を図るのにじっくり時間をかける必要があるからです。被災地住民がじっくり意思形成・合意を図っている間に「国の復興予算はもう使い尽くしたので、対応できない」などということがないようにしなければなりません。

 そのためにも、被災地からの情報発信がこれまでにも増して大事になってくると思います。間もなく震災から2年。メディアはすでに「2周年番組」を企画しているようですが、絵になるニュースだけを追い求めるのではなく、被災地の内面に深くきりこんで、地に足のついた復興を進めるには、何を理解する必要があるのか、をあきらかにするような記事・ニュースを求めたいと思います。

<後記>

  • -
  • 2013.02.06 Wednesday
 京都に所用で5日間ほど出かけたため、1月24日頃発行のレポートを休み、1月31日頃に出そうと思っていた矢先に、久々にぎっくり腰にやられてしまいました。その間、パソコンの前に座るのもつらく、約2週間ぶりの発行になった次第です。
 本文にも書いたとおり、非常に難しい時期を迎えていると思います。その意味でも復興にむけての正念場だと思います。そのあたりのことに踏み込めるレポートを心がけていきたいと思います。
(了)

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