特集:栄村振興公社について考える
「栄村復興への歩み」の新しい号の1つの記事として栄村振興公社について書こうとしたところ、1頁や2頁ではすまなくなってしまいました。
そこで、思い切って、No.287は「振興公社特集」とし、ほぼ同時に通常の内容構成のNo.288を発行することにしました。
本号はほとんど文字ばかりで、読みづらいかと思いますが、大事な問題ですので、お読みいただければ嬉しく思います。
振興公社とはそもそも、どういうものなのか?
この何年もの間、「栄村振興公社」が話題(問題)になり続けています。
直近の3年間は、「3億円もの委託事業を受けていながら、それらしい事業をできていないのではないか? 3億円を無駄にしているのでは?」という疑問(批判)が中心だったと思います。
最近は、「森川村長に近い人が理事長になったのは何故?」ということが話題(疑問)の1つの焦点になっています。
振興公社が話題になることには積極的な意義があると思いますが、「振興公社とはそもそも、どういうものなのか」を正確に理解しないで、議論だけが先行すると、誤った判断をしかねません。そこで、まず、そこから話を始めたいと思います。
●一般財団法人とは何なのだろう?
振興公社の車などには、必ず「(一財)栄村振興公社」と書かれています。
この(一財)って、何なのか? みなさん、ご存じでしょうか。
(一財(いちざい))は「一般財団法人」の略称です。よく似た名称に、一般社団法人、公益財団法人があります。
■社団法人と財団法人の違い
一般社団法人は純資産がゼロでも設立できるのに対して、一般財団法人は純資産が最低300万円以上ないと設立できません。そのため、一般社団法人が「人の集まり」であるのに対して、一般財団法人は「財産の集まり」だと言われます。
(一財)栄村振興公社は3千万円の設立金を基に設立されています。
■そもそも、法人って何なのか?
「法人」とは、「法律によって人と認められた存在」と解釈すればよいでしょう。分かりやすい事例で説明しましょう。町内会などが法人格を取得していないと、口座を作る時、個人名の口座しか作れないのに対して、法人格を取得すると町内会の名前で口座を作れます。
■民間企業との違いは?
普通の企業(株式会社など)は営利の追求を目的とします。そして、儲かれば、それを出資者に配分します(株の配当金など)。それに対して、一般財団法人に剰余金(儲けと言ってもいいです)が生まれた場合、これを役員等に分配することはなく、財団が設立の目的とする活動の資金として活用していくことになります。
●栄村(役場)と振興公社は、どういう関係にあるの?
しばしば、村が振興公社を所有し、経営責任を有しているかのように理解している人がおられますが、これは間違いです。
一般財団法人栄村振興公社の設立にあたって、栄村は3千万円を拠出していますが、これは寄付です。出資ではありません。したがって、村が振興公社を所有しているわけではなく、また、経営に関与することもありません。
しかし、こういう誤解を生みだす要因となっている事柄が、もう1つ、あります。
村が「指定管理者制度」という制度(地方自治法で2003年に導入された制度)を使って、村所有の施設(「トマトの国」などの温泉宿泊施設)を振興公社に管理(運営)させていることです。村は振興公社に対して指定管理委託料を平成27年度から支払っています。
この指定管理制度では、施設の所有者は依然として村ですが、その管理・運営は振興公社に任せられており、村は介在しません。ただし、その施設を振興公社以外の第三者に占有させる等の行為は振興公社の権限には含まれていません。
したがって、施設そのものの補修などは施設の所有者である村が行ないますが、温泉宿泊施設としての運営(経営)は振興公社の責任であり、運営(経営)上の赤字を村が補填するような行為はありえません。指定管理者に指定した法人等に経営能力がないとなれば、村は指定管理者を別の法人に変更するなどの措置をとることになります(議会の議決が必要)。
●「(一財)栄村振興公社」は何を目的に設立され、どのように運営されているのか
栄村振興公社の設立目的は「定款(ていかん)」(基本ルール集のようなもの)に書かれています。
「栄村の恵まれた自然を生かし、都市との交流等の事業を行う
とともに、地域経済の発展と住民福祉の向上に寄与すること」
(定款第3条)
その目的を達成するための事業として、たとえば「(3)都市との交流及び農林産物の振興」など8つの事業が定款第4条に列挙され、その1つに「(5)栄村が設置する施設の受託管理」も入っています。
■振興公社の役員と経営最高責任者
栄村振興公社には、評議員(3名以上5名以内)と理事(3名以上5名以内)、監事(2名以内)が置かれます。評議員、理事、監事のいずれも評議員会が選任します。
評議員会と理事会の関係ですが、私は6月村議会で、振興公社の評議員になっている森川村長に、「一般の企業にたとえて言えば、評議員会は取締役会に相当し、ここが最高決定機関。理事会はいわば執行役員会だと思うのですが」と尋ねました。この質問は振興公社の定款に書かれている内容を分かりやすい表現で言い換えたものです。森川村長は「今の分かりやすい言い方で正しい」と答弁しました。
つまり、栄村振興公社の最高責任機関は評議員会だということです。
なお、森川村長は村長就任後の5月下旬に振興公社評議員に就任していますが、「栄村長であるがゆえに振興公社評議員に就任した」という認識を議会答弁で示しました。栄村振興公社は一般財団法人という民間財団ですから、「村長ゆえに評議員になる」というのは妥当なことではないと、私は考えますが。
●本年4月以降、事務局長が不在
振興公社は定款第34条で、「当法人の事務を処理するため、事務局を設置する」とし、その第2項で「事務局には、事務局長その他必要な職員を置き、理事長が任命する」としています。
従来、この振興公社事務局長は役場から派遣される職員が就いていました(本年3月末までは福原洋一氏)が、4月以降、事務局長は空席になったままです。
村長選でいずれの候補も公社事務局長への役場職員の派遣に否定的な見解を示していたので、5月16日の新村長就任までは空席、その後、新村長が考えを示すのだろうと思われていました。
しかし、森川新村長の就任、振興公社新理事長の選任からすでに1ヶ月を経た現在も事務局長は任命されず、不在のままです。これは異常な事態だと言わざるをえません。
振興公社の現状はどうか?
●森川村長の振興公社の現状に対する認識
森川村長は6月議会で「所信表明」をしましたが、そこには公約や5月16日に役場職員に配布された文書には記されていた振興公社に関する記述が消えていました。
私が一般質問でその理由を問うたところ、森川村長の答弁は「もう(新)理事(が)動き出して活躍してもらっている。(だから、振興公社に関することを所信表明に)わざと出していない」というものでした。
振興公社の評議員でもある森川村長は高橋新理事長体制を高く評価しているということだと思われますが、何をもって高い評価をしているのかは分かりません。
●振興公社の経営は深刻な状況だと思われます
私は、6月議会で入手した振興公社の平成27年度決算報告書に基づいて振興公社の財務状況を調べてみました。
その主な内容を紹介します。
■昨年度(平成27年度)、振興公社の財産は約600万円減った
企業などの財務状況を見るには「貸借(たいしゃく)対照表(いわゆるバランス・シート)を見ろ」と言われます。
そこで栄村振興公社の「貸借対照表(平成28年3月31日現在)」を見ると、「一般正味財産 225,380(円)」とあり、その内訳として「前期繰越剰余金 6,255,820」に対して、「当期剰余金 △6,030,400」とあります。つまり、平成27年度の1年間で栄村振興公社の一般正味財産が約600万円減ったということです。
■1年間で約600万円の赤字が発生した
なぜ、600万円の財産が減ったのか? その説明は「収支計算書」という、もう1つの書類を見ると、明らかになります。
「営業収益」で約4千万円(正確には4,084万7,367円)の赤字が出ています。また、「一般管理費」(振興公社という組織を運営するのに必要な経費)等で約1,270万円の赤字が出ています。
しかし、「営業外収入」というものがあり、これが約4,750万円あります。これは黒字要因です。
「営業収益」「一般管理費」で出た赤字と「営業外収入」を差し引きすると、赤字額は約600万円に減ります。これが「貸借対照表」に出てきた「一般正味財産」額の減少の原因であるわけです。
なお、「営業外収入」の大部分、約4,430万円は「受託事業収入」によるものと記されています。これはいわゆる「3億円事業」(「生涯現役事業」)の最終年度(平成27年4月〜9月)のお金が入ったということです。念のために言えば、「3億円事業」はもう終わりましたので、今年度は期待できない収入です。
■「でも、振興公社には約3千万円の財産がある」?!
もう一度、「貸借対照表」に戻ります。
「正味財産の部」というところを見ると、「正味財産合計」として約3,020万円という金額が記されています。
「なーんだ、公社は3千万円も財産があるじゃないか。それなら、600万円くらい赤字が出ても大丈夫だ」と思われるかもしれません。
でも、不思議ですね。「一般正味財産」は約22万円しかないと記されていたからです。
その謎は、「指定正味財産」という項目を見ると、解けます。それがちょうど3千万円あるのです。これは「(一財)栄村振興公社」の設立時に栄村から拠出された金額と同じです。
でも、「指定正味財産」という用語は私にとっては初めて見るものだったので、調べてみました。すると、公益法人の会計基準の中にこの用語があって、「指定正味財産は、貸借対照表の正味財産の部において、寄附者等から受け入れた財産に対する受託責任を明確にするため、一般正味財産と区分して表示しなければならない」とされています。(一財)栄村振興公社は公益法人ではないので、「一般正味財産」と「指定正味財産」を区別する義務はないと私は思いますが、すでに解散された「公益法人栄村振興公社」(平成25年に(一財)栄村振興公社に移行)の慣習を引き継いでいるのかもしれません。しかし、貸借対照表で「指定正味財産」と「一般正味財産」を区分するならば、「正味財産増減計算書」という書類においても、「指定正味財産の部」と「一般正味財産の部」を区分して記載しなければならないにもかかわらず、(一財)栄村振興公社の「正味財産増減計算書」ではその区分はされていません。実質的には、「指定正味財産」と「一般指定財産」の区分はなされていないと見るのが妥当ではないかと思います。
大事なことは、この「指定正味財産」の3千万円というものが「いつでも使える財産」として存在しているのか、だと思います。
結論から先にいえば、私は「ノー」だと思います。
■正味財産は現金でなくてもよい
「正味財産」は、一般企業の貸借対照表では「純資産」と表記されますが、「資産」というのは現金である必要はありません。たとえば、「当り馬券はまだ換金されていなくても資産である」という解説を見ることもあります。
■(一財)栄村振興公社の現金と預金の合計は約2千780万円
振興公社の貸借対照表の「資産の部」で、現金及び預金がいくらあるのかを見ると、約2千780万円です。
「なんだ、正味財産が3,020万円というのは事実ではないのか?」と思うかもしれませんが、そうではありません。
「資産の部」には、現金、預金の他に、たとえば「棚卸商品 13,468,967(円)」という記載があります。つまり、振興公社が仕入れたが、まだ売れていない商品が約1千350万円分あるということです。これは売れれば、その分のお金が振興公社に入ってきます。ただ、100%確実に売れるという保証があるわけではありませんし、振興公社は色んな物品を扱っていますので、手持ちの商品が売れる一方で、新たな商品在庫が増えることもありえます。
したがって、「いつでも現金として支払いにまわせる財産(お金)は約2千780万円」と理解しておくのが至当ではないかと思います。
■運転資金は現状で充分か
自営業を含めて経営ということに関わっている人ならば、すぐに理解できることですが、会社や店の経営には運転資金というものが必要です。
たとえば、従業員を雇っている場合、月々、給料の支払日が来れば、給料を現金で支払わなければなりません。また、なんらかのローンがある場合、月々の支払期限までにその月の返済額を支払わなければなりません。
いずれの場合も、「あと1週間たてばお金が入ってくるので、それまで待って」と言うことはできません。
振興公社の場合、従業員(職員)が約20名いますから、平均給与1人15万円と少なめに見積もっても1ヶ月300万円、年間で3,600万円のお金が必要になります。
振興公社は宿泊施設を運営(経営)していて、宿泊料等の売上収入がありますから、宿泊施設の従業員の給料はその売上収入で支払えるかと思います。しかし、「一般管理費」は支出ばかりで、その支出は営業収益または営業外収入で賄う必要があります。平成27年度の場合、先にも書いたとおり、営業収益は赤字で、「3億円事業」の4,430万円を主とする営業外収入で賄っています。しかし、今年度はこの営業外収入はそんなに期待できません。
私は、運転資金は充分ではないと見ています。
振興公社は守らなければならない。さて、どうしたらよいか?
ここまでいろんなことを書いてきましたが、村民のみなさんの関心は「振興公社をどうすればよいか?」という一点に収斂(しゅうれん)すると言っていいと思います。
栄村振興公社の経営状況はきわめて厳しい状況にありますが、私は、振興公社は絶対に守らなければならない、と考えます。
まず、人件費の確保はたしかに大変ですが、村の雇用ということを考えた場合、振興公社の雇用はかなり大きな位置を占めています。振興公社の職員には温泉宿泊施設のお客さまへのサービス向上、利用客数の増加などのために自らを鍛え、頑張ってもらわなければなりませんが、同時に、職員のみなさんの働く者としての権利をしっかり守り、雇用を守っていかなければなりません。
第2に、宿泊施設への宿泊者等の増加、栄村特産品(とくにトマトジュース)の売上増加のために、商品企画、情報発信の面で自己改革的な改善・飛躍を図ることが必要です。事例を1つだけ挙げますが、宿泊施設で働くみなさん、みなさんはお客さま一人ひとりのお名前、お顔、関心事と好みについて、どれだけご存じですか? 私はこの点について大幅な改善余地があると思います。そして、管理部門の人は宿泊施設部門の人がもつ情報をどん欲に、丁寧に吸収しなければ、振興公社全体としてのいい情報発信、経営管理ができないと思います。
第3に、最重要のことですが、振興公社の経営責任体制を明確にすることです。理事や評議員は「評論家」ではありません。経営責任者です。振興公社の経営が行き詰まるようなことがあれば、その責任を負うのはあなたたちです。「職員がだらしないから」などと言うのは無責任、自らの経営責任の他者への恥ずべき転嫁です。
しかし、経営責任とは上から目線で、職員に勝手な「指示」を出すことではありません。中堅職員の能力と努力にもっと信頼を寄せ、彼ら・彼女らに権限を付与し、その能力を引き出していくことです。中堅職員の人たちにはプロとしての誇りと自覚をもって、さらに飛躍して創造的な仕事に邁進してほしいと思います。
最後に、一つ、重要なことをおさえておきたいと思います。振興公社をめぐって、しばしば、「民業圧迫」ということが言われます。栄村の観光市場は現状ではたしかに限られたものです。その中で「民業圧迫」ということが話題になること自体は不思議ではありません。しかし、「民業」と振興公社の関係は、必要なデータも開示しながら、中立的な立場の人たちの公正な判断を聞きながら、調整していくことが必要です。栄村と栄村の観光産業が発展していくには、特定の人や会社に観光産業をめぐる権限などが集中・偏在することがないように配慮して、公正で民主的な議論、施策の決定を進めていくことが求められます。
村民のみなさんも、振興公社の職員などとの会話の機会を増やし、自らの知恵や意見を伝えて、一緒に振興公社の経営改善・発展−栄村の発展に努力していくようにしようではありませんか。